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2026.01.31

タカシとヨシコ

初対面 / 公園のベンチ

タカシ(82) 元教師。妻を5年前に亡くした。孫にアプリを入れてもらった。
ヨシコ(79) 元看護師。夫とは10年前に離婚。一人暮らし。

待ち合わせは公園のベンチ。タカシは10分前に着いた。杖を横に置いて、鳩を見ていた。

ヨシコは時間ぴったりに現れた。「タカシさんですか?」と聞いてきた。タカシは立ち上がろうとして、膝が痛んだ。「あ、座ったままでいいですよ」とヨシコが言った。

隣に座る。二人とも、何を話せばいいか分からなかった。

「アプリ、難しくなかったですか?」とヨシコが聞いた。

「孫に全部やってもらいました」とタカシは正直に答えた。「写真も孫が撮ってくれて」

「私も娘に」とヨシコは笑った。「『お母さん、若い頃の写真使っちゃダメだよ』って怒られました」

タカシも笑った。久しぶりに笑った気がした。

「お昼、どうしますか?」とタカシが聞いた。

「近くにうどん屋があるんですけど」

「うどん、好きです」

二人はゆっくり歩いた。タカシは杖をつきながら。ヨシコも腰が少し曲がっていた。若い人なら5分の距離を、15分かけて歩いた。

うどん屋に着く。タカシはきつねうどん、ヨシコはかけうどん。「私、天ぷらはもう重くて」とヨシコが言った。タカシは頷いた。分かる。

うどんを食べながら、昔の話をした。仕事のこと。家族のこと。亡くなった人のこと、離婚のこと。重い話も、軽い話も、全部同じトーンで話した。もう、隠すこともない。

「また会えますか?」とタカシが聞いた。言ってから、少し恥ずかしくなった。82歳にもなって。

ヨシコは少し考えてから言った。「来週の水曜日、空いてます」

タカシは手帳を取り出した。予定は何もなかった。「空いてます」と言った。

帰り道、公園まで一緒に歩いた。「じゃあ、また」とヨシコが手を振った。タカシも振り返した。

家に帰って、孫に電話した。「どうだった?」と聞かれた。

「うん、よかった」

「また会うの?」

「うん」

孫は笑っていた。タカシも少し笑った。

恋とか愛とか、もうそういう言葉は似合わない歳だと思っていた。でも、来週の水曜日が楽しみだった。それだけで、十分だった。

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